きのうご紹介した北海道長沼町の住宅続篇です。
全室暖房が常識である北海道では、暖房方式をどう選択するのかは、
最大のテーマであり続けています。
全国とはまったく違う住宅進化を遂げてきた起動力は、
暖房をいかに合理的に安価に全室暖房として実現するかだった。
明治以来、ストーブという欧米文化がいち早く導入され、
石炭が北海道の主要産品として生産されるようになって、
北海道では暖房熱源として石炭が安価に道民に提供されてきた。
各家庭に「石炭小屋」が併設され、個別配送もされていた。
その後、国のエネルギー政策が石炭から石油輸入に転換し、
主要産業としての炭坑も閉山に追い込まれ、暖房も石油ストーブへ転換された。
そういった折りに石油危機が勃発し、未曾有の危機感を持って
住宅の性能向上がオール北海道として、官民挙げて必死に取り組まれた。
断熱・気密といった基本性能の解明と、木造在来工法の改良が推進され、
輻射熱暖房、石油温水暖房によるセントラルヒーティングが普及し、
それを追って「オール電化」による深夜電力利用の蓄熱暖房も広がった。
しかし3.11以降、電気ナマ炊き暖房への反省が生まれ、いま現在の状況がある。
一方で、薪ストーブへの憧憬はこれまた根強い。
東日本大震災以降、これは全国的ではあるとも思いますが、
北海道ではやはり、万が一の暖房方式として薪ストーブへの支持は熱い。
ただ、これはやはり高価であると同時に、熱としてはコントロールが難しいので
あくまでも「豪華な補助暖房」という位置にとどまっている。
いまはさまざまな熱源方式での暖房が同時並行的に試行錯誤されてきている。
石油やガス熱源によるエコジョーズなどのシステムや、
ヒートポンプやハイブリッド方式による温水循環輻射熱暖房などが普及しているが、
そのなかで、エアコンによる暖房もそのコスト面の合理性で受け入れられてきている。
ただ、北海道民には暖房での気流感への拒否反応がある。
FF石油ストーブ暖房の時代に、その吹き出す温風が乾燥感とともに
空気を撹拌してノドを痛めるなどの不快感に繋がった負の記憶があるのです。
高価ではあるけれど、輻射暖房が根強く支持されるのは、
そのような不快感が根本的にない暖房という評価があるのです。
そういった経緯に踏まえてか、エアコンも本州で一般的な壁設置型ではなく、
温風が直接人体に当たらないような設置法を各社とも工夫している。
このあたり冷房利用は顧慮されず、暖房としてのみ利用という北海道の特性かも。
このお宅では、上の写真のように温風吹き出しが「床面を這う」ように工夫されている。
設計施工のヨシケン・吉田専務によると、床下ピット空間に吹き出す方式も考えたけれど、
コスト面と効率を考えて、この家ではこういう方式を取ったということ。
この写真は昨年拙ブログでご紹介した「床下ピットへの温風吹き出し」型の
エアコン設置例です。設置法の違いが比較でお分かりいただけるでしょう。
このようにいまは実に多くの試行が行われている。
ダクトエアコンタイプの採用例も増えてきているし、まさに百家争鳴。
さらにこのお宅のように、エアコンとアナログ薪ストーブのコンビというのも、
一部では根強く支持されている暖房スタイル。
メーカーの開発方向や、研究者の意見や施工者の声などもさまざま。
設置方法のそれぞれの違いなど、いま北海道でいちばん「熱い」領域です。
Posted on 6月 5th, 2017 by 三木 奎吾
Filed under: 住宅マーケティング, 住宅性能・設備
コメントを投稿
「※誹謗中傷や、悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために、投稿された全てのコメントは一時的に保留されますのでご了承ください。」
You must be logged in to post a comment.