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日本的な製造業

写真は、先日見学した日本酒醸造元・旭川高砂酒造の天井壁面の様子。
一面に張り付いているのは、糀菌なのだそうです。
糀菌というのは、日本酒の原材料であるお米を発酵させる菌。
お米と清水がいいお酒の2つのポイントではありますが、
同時に、その土地にしか生息していない発酵菌が
そのお酒の決定的な「地酒」らしさを生んでいる。
細菌と書けば、なにやら悪さをするものと思い込まされてきた
「西洋近代主義」の衛生観念の世界からは
かなり遠い世界観ではあるのだけれど、
かれらにしたって、チーズやウィスキーの複雑玄妙な味わいの世界は
その基底において認識し、当然のものとわきまえてきていた。
ただ、キリスト教的な世界観から、アジア的な、あるいは
エスニックな生産システム・エコシステムに対して忌避する感情が旺盛で
にわかには認定してこなかったのでしょう。
そういった見直しの気分があふれてきて、
こうした日本的なものづくりのスタイルに
素直な心情で向かい合えるようになってきた。
こういう写真のような壁や天井のシミは、「非衛生」というような
認識すらあったのかも知れませんが、
今日、これらを説明するときの誇らしげな語り口に
深い日本的な調和のものづくり精神が感じられて、楽しかった。

そんな酒造メーカーで販売していたのがこの「帆前掛け」。
わたしの実家は、もやしなどの食品製造業を営んでいるのですが、
父親の創業時から、年末の贈答品と言えば、この帆前掛けでした。
日本的なジーンズ地のしっかりとした木綿の布地に
藍染めが馴染み、いかにも労働の力感を感じさせるがっしりといた風合い。
白く染め抜いた名前の刷り込みも本格派なんだそうです。
こういう本物感、正直なものづくりの姿勢を表現するような贈答品が
日本人の製造業の精神性のなにかを表現していたように思います。
同年代の女性の友人、それも美術クラブだった女性が
「いいよね、こういうの? どうかっこいい?」
とモデルを志願してくれ、すっかり気に入って購入までしていました(笑)。
現代はデリバティブがどうこう、というような
「金融資本主義」の価値観の方に重きが置かれつつある時代。
ものづくり云々とは違う価値観に向き合わねばならないビジネスの世界。
わたしたちの年代が、こうした日本的な製造業の折り目正しさを
まっとうに次の世代にバトンタッチしていけるのか、
はなはだ、心許ない部分は多いけれど、
しかし、心にしっかりと留め置いて日々、務めていかなければならない。
そんな気がしてきています。

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