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【吉田五十八「猪俣邸」茶室の腰貼り宿曜暦】


茶室などの見学機会というのはそう多くはない。
北海道東北での新築住宅で、そういった室にこだわった家というのは
そう多くはないだろうし、通常目にすることは少なくなる。
一般的に取材住宅を選定するときにもそういった志向には向かわない。

ということで、東京世田谷の「猪俣邸」茶室であります。
この茶室、2度目の遭遇で一度は見ていたはずだし、写真も取っているのですが
もう一回見学したら、こちらの腰貼り和紙に目が行った。
よく見てみたら、なんと文字がたくさん書いてある(!)
この茶室は繊細なヨシとか竹などで作った骨組みがそのまま透けるようで、
その木組み格子越しに入り込んでくる外光が非常に印象的で
幻想的な空間演出になっていた記憶が鮮烈だったので、
この「和紙の腰貼り」まで注意力が行き渡っていなかった。
今回11月18日の再訪では、時間的に外光差し込み条件はなく、
その分、室内の造作に目が向いていたということでしょうか。
こういう腰貼りに使用済みの和紙を使うということ自体は
聞いたことがあったけれど、実物でこのように見ると
なんとも「数寄」の世界だとあらためて実感させられます。
押し寄せる老眼のため、細かい文字は読めなくて
写真に収めてからPhotoshopで写真詳細を検証すればいいやと思って
今回、下に画像処理させてみたデータを掲載しました。
どうも明瞭に読み取れる文字は、
「五月小建壬午角宿 室史よう」というように書かれている。
これって、どうやら宿曜暦、カレンダーのような印刷物と推定される。
Wikipediaでの記載は以下の通り。
「宿曜道(すくようどう)とは、平安時代、空海をはじめとする留学僧らにより、
密教の一分野として 日本へもたらされた占星術の一種。
密教占星術、宿曜占星術などともいう。
その内容は、インド占星術(ギリシャ由来の西洋占星術とインド古来の
月占星術が習合し独自に発展したもの)、道教由来の天体神信仰、
陰陽五行説等が習合した雑多なものである。基本的に北斗七星・九曜・十二宮
・二十七宿または二十八宿などの天体の動きや七曜の曜日の巡りによって
その直日を定め、それが凶であった場合は、その星の神々を
祀る事によって運勢を好転させようとする」というものだそうです。
現代北海道人はほとんど興味を喪失したようなものですが、
1967年(昭和42年)という創建当時にはまだこういったカレンダーが
一般的に普及していたということか、あるいは、
設計者吉田五十八さんにとって、一種のユーモアでもって茶室意匠として
採用したものか、おそらくはその両方だろうと思います。
茶室の来客はこの腰貼りを見て「おお」と会話のきっかけになった気もする(笑)。
はるかに時代を経て、そんな建築意図が伝わってきて心がなごむ。

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