いうまでもなく日本の中心的なエスタブリッシュメントは、東京にある。
たぶん多くの領域に於いては首都の先導性が優越しているでしょう。
わたしが中心的に関与している出版の世界でも、
当然、東京の優越性はまったく自明のこととされています。
しかし、こと住宅建築に於いてはやや事情を異にする。
明治期以来、北海道の地は日本民族北方進出の最前線地域として、
農業から始まって技術革新の最先端として「開拓」されてきた経緯があり、
とくに住宅建築技術は日本の伝統的工法では
その寒冷への対応、暖房エネルギーの統御という点に於いて、
たいへん遅れていることが実証され、断熱や暖房技術などが、
北海道を中心として研究開発されてきた。
そのプロセスでは、北欧や北米といった世界の先進寒冷地域の技術が
基本として導入され、北海道はその巨大な実験場となった。
そのことはいったん東京を介してというよりも、北海道に直輸入された。
実体としても、北海道人が主体となって推進されたといえる。
北海道ではその目的のために、官庁が主導的に取り組み、
そこに研究者や実践者がお互いの知見を共有し合って、
地域としての「技術開発力」を協同して高めてきた。
いまに至っても、北海道建設局住宅指導課という存在が活発に動き、
その研究団体として、北総研という地方独立行政法人まである。
その所長はいま、国の住宅政策にも主導的に関与している。
いま、世界的に「環境共生」サスティナビリティということが求められている。
エネルギー大量消費型から省エネの方向に大きくカジが切られている。
そのときにこの住宅の高性能化技術、人間を過酷な自然から守っていく
「断熱」の技術は、基本要素技術とされている。
民生エネルギー総量を低減させるには、この技術がもっとも重要なポイント。
コトバとしての「環境住宅」は、この要素技術「断熱」を欠いて論議できない。
少なくとも北海道に於いてこのことは自明のことであり、
それにいま、多くの温暖地域の人々もうねりを持って同意してきている。
一方、ことし新建築住宅特集さんが6月号で「環境住宅」特集を組まれて
その巻頭論文を気鋭の若手建築研究者・川島範久さんが書かれた。
出身の東大で難波和彦氏や前真之氏に師事され博士号も同大で取得。
現在は、東京工業大学環境・社会理工学院建築学系助教 博士(工学)
であり、日本建築学会地球環境委員会 「地球の声」デザイン小委員会
<塚本由晴氏が主査で、川島さんが幹事>というプロフィル。
NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)で2014年の日本建築学会賞も受賞。
この巻頭論文は「自然と繋がるDelightfulな建築へ」と題された。
リード文では、「環境に応答する住宅を特集します」として、
「本当に求められているのは、人と自然の新しい関係を問うもの」
「単なる快適性のみを求めるものではなく、
新しい自然との繋がる住宅の可能性を見ていただきます」というもの。
川島さんの文章では、いくつか但し書きは読み取れたけれど、
その特集住宅事例は基本的に断熱の概念もないスケスケ住宅が多数派。
さらに巻頭論文の下段囲み記事として紹介されていた、
「環境技術と環境政策の系譜(年表)」においては、
北海道が地域総体として1世紀以上取り組んできた「断熱技術」歴史が
きれいさっぱり、ほとんどひとことも触れられていなかった。
こういった状況を見て、わたしとしては異議申し立てを行った次第です。
年末に至って、その論文執筆者の川島範久さんから連絡があり、
北海道にて対話の機会を持ちました。<以下、あした以降に>
Posted on 12月 19th, 2016 by 三木 奎吾
Filed under: 住宅マーケティング, 住宅性能・設備
コメントを投稿
「※誹謗中傷や、悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために、投稿された全てのコメントは一時的に保留されますのでご了承ください。」
You must be logged in to post a comment.