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アイヌの家・チセ

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二風谷の探訪編2です。
民俗資料館周辺には多くのアイヌの家・チセが展示されています。
写真左側のような住宅です。
間取り的には1間だけですが、ほぼ一定に前室というか、
機能的には「風除室」と言える入り口空間があります。
たぶん、冬場の風向きを考えて入り口の方向は設定されているものと推定されます。
そんなチセのなかに一軒だけ、
布製品を作っている方がいましたので、いろいろお話を伺いました。
こちらは住宅関係なので、必然的に作り方のことに質問が及びました。
まず、アイヌの人たちは結婚を契機としてチセをつくるということ。
それも、大部分は婿のところに嫁が来て、
婿の実家の近くに新築するのだそうです。
婿の側では、新築するのに必要な建築材料を揃えることが必要。
建築プロセスを資料館ではビデオで見ることができましたが、
基本構造は掘っ立て柱を四隅などに立てることからはじまります。
地中に1m近い穴を穿って、そこに周辺で伐採した柱材をしっかり固定する。
次にこの柱に横架材を架けていって、基本構造を作る。
そこに三脚状に組み上げた「柔軟なトラス」ともいえる屋根の構造材を立てる。
これが前と後ろに2つ立てられる。
これをつなぐように、棟木が架けられる。
簡単に言って、こんなプロセスで構造が形作られる。
すべてが周辺の山に入って伐採してくる木材ばかり。
その意味では、労力だけでしつらえられる。
一方で、基本建材になるのは写真右側の「茅」。
壁も、屋根も茅で造作されています。
注意してみると、それらが結束されている。
「茅を切って、一定の束にするのは女の仕事なんです」
と、布製品を作っている女性から聞きました。
彼女は、この茅束作りが得意だったのだそうです。
コタンの周辺には茅の自生場所が確保されていて、
家づくりのための材料を協同で確保していたのですね。
「いまはお馬さんたちの牧場になってしまっています(笑)」
この茅束作り、熟練者で1日にできるのは30束ほどだそうです。
家1軒分には、700束ほどの量が必要と言うこと。
で、こういう茅束を使って、
「縫い物を作るように・・・」
構造材の骨組みをくるんでいくように造作していくのだそうです。
茅束ごと、あるいは四隅など雨仕舞いで慎重な場所では束をほぐしたりしながら
この茅束で家をくるんでいくわけです。
で、構造の骨木材に対して、縄やなめした柔らかい木などで
ちょうど茅束の布を,糸で縫うようにして結束していくのです。
本当に縫い針のような用途の大きな木製針も見せていただきました。
屋根は「段葺き」という造作がされていました。
雨への防水対策で、雨漏りしないように工夫されていました。
壁を先に仕上げて、屋根は軒側から順に上に向かって仕上げていくようです。
地震などへの耐力は、聞いていて、かなりの柔構造なので
「どんな地震にもビクともしません」ということ。
建築の最後には屋根にたくさんの人が登って作業することになるので、
自然に建物が「締まってくる」という効果もあって、
完成の時には、凛とした状態になるのだそうです。
たいへん理にかなった作り方だと感心させられます。
茅は中空の素材なので、内部に空気を保持しているので、
一定の断熱性能はあったものと推測できます。
というか、自然素材の中で、もっとも適合した材料ということが出来ます。
以上のような基本建築費用を考えてみると、
構造材などは建て主の基本労務で集めてくることができる。
茅束を計算すると、熟練者で25日くらいあれば作ることができる。
これを1日人工で計算すると、15000円×25日で、375.000円程度。
こうした材料を、建て主が建築場所に用意しておくと、
あとは日を決めて、集落全体の労力で建築工事にかかるのだそうです。
聞き取った工事内容で考えると、10人程度で10日もあればできそうに思えます。
これも15,000円×100で、1,500,000円程度と考えられる。
その他の結束材などを勘案しても、総工費2,500,000円程度でしょう。
まぁ、人工の計算で大きく違ってはくることでしょうが・・・。
いずれにせよ、当たり前ですが、このような自然素材だけで造作されているのですね。
内部には、大きな炉が作られています。
東北地方の古民家と比較してもかなり大きめであるのは、当然か。
明かり取りと、宗教的な意味合いからかならず窓が何カ所か開けられます。
建具は蓋状のものが考えられています。
確かに冬はきびしい暮らしだけれど、暖房すると、
その輻射熱で、かなりあたたかくは感じていたということでした。
家づくりの知恵の深さにしばし、感嘆していた次第です。
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