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立ち去りがたかった家

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その家に行くには、最後は徒歩になった。
ひとあしごとの足下からは、ビクビクとした生命感そのものの虫たちがいっせいに飛び上がる。
十勝ツーバイフォー協会という建築工務店メンバーが札幌で住宅見学を希望したので、この建築家・平尾稔幸さんの週末の家、っていうかロシアの「ダーチャ」と呼んだ方がふさわしそうな建物を訪れたわけです。
舗装道路から約200mくらい歩いてようやくたどりついた。
しばし、メンバーの間から声が出ない。およそ、住宅というイメージとはすべてにおいて違う。
冬期間の雪を考えて主たる居住スペースは2階。
眺望を優先して、間口は1間なのに奥行きが長いウナギの寝床のような平面計画。そこから突き出すように寝室だけが出っ張っている。ベッドのうえは低い三角屋根なりの窓が開けられていて、開け放てば満天の星空の下で眠るかのようだ。
設計者の平尾さんが長靴姿で迎えてくれた。ここにくるとややしばらくは草むしりに追われるのだと、笑っている。
居間コーナーとおぼしきあたりで、平尾さんが座り話し始めるが、訪問者はどこにすわるべきか、所在なげに立っている。
案内人ではあっても、自身もはじめて訪れるわけで、わたしも勝手がわからない。
どうも窓に面した側に、ベンチのようなものが見られる。それに腰掛けるのだそうだ。
座ってからの眺望は、まるで列車の窓からの眺めのようで、いったん腰を下ろしてしまえば、過不足のない空間的な充足感に満たされてくるから不思議なものだ。
だんだん話がディープになってくる。
こういう空間では、建前っぽい話はでてこない。
「あはは、これでいいんだ」
誰かがいうと、どっと笑いが沸き起こる。
でも、一見破天荒な建築に見えて、2重構造の屋根・壁、通気の考えなど、まさに理にかなっている。
見学の予定時間におされているのだけれど、立ち去りがたい場の魅力に足が動かない。
ふりむき、振り向きしながら、ようやくその家をあとにした。
暑かった夏の日の住宅見学でした。
<写真提供/安達治>

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