一昨日、ドイツの住宅関連の官民の代表者を招いての
セミナーのことを書きました。
で、前から気になっていた、「北海道の住宅性能の国際的位置づけ」
について、考えが及ぶようになって来ました。
上の図は、IBEC(省エネルギー機構)が発表している各国での住宅性能基準表。
基準としてはQ値1.6という北海道のレベルは
まぁ、世界の中でもそう劣っているとも思えない。
で、ドイツと日本の総住宅数や着工数比較は以下のようになっています。
出典は、国土交通省の調査資料です。
上がドイツで下が日本です。
年間の「住宅着工数」が全然違う。
ドイツでは17万戸なのに日本は100万戸超。(最近80万程度に下降)
総戸数ではドイツは約3600万戸に対して日本が約5000万戸。
年間着工は1:5程度なのに、総戸数は72:100という比率。
こういう数字を見ていると、非常に新陳代謝の激しい日本に対して
住宅が非常に保守的な概念になっているドイツというような対比が見える。
石の住宅文化の国と、木の住宅文化の国の違いだろうか。
一方で、ドイツはここ10年くらいで
住宅性能基準を大きく前進させたけれど、
国全体の実態としての住宅性能レベルは、依然として低レベルであり、
既存改修で現行基準に合致した住宅は1%程度ということ(先日のドイツ側発表)。
基準を厳しく設定すればいいというものではない実態が見えます。
一方で、新設住宅での北海道の住宅性能レベルはどうなのかと探してみたら、
北海道建設部住宅局建築指導課による「推定値」があった。
それが以下の図です。
国全体での住宅性能基準達成率は、1〜2割と書かれています。
そもそもの基準値自体が、温暖地ではお粗末な数字だけれど、
それでもその程度しか達成されていない。
それに対して北海道では、7割がQ値1.6を達成していると推計されている。
年間約30000戸のうち21000戸で達成していて
年々その率は上昇している。
このように考えてくると、平均としての北海道の住宅性能レベルは
やはり北欧のレベルに近づいているのではないかと思われます。
そうした住宅性能を、水分コントロールのきわめて難しい
本来が南方系の住宅構法技術である軸組木造で
達成できるほどの技術資産が、北海道にはあるとも言えるのでしょうか。
・・・このテーマ、いろいろ研究の必要があるでしょうね。
追記
着工件数で見ても、ドイツで一戸建てを建てられる人というのは
きわめてレアな存在だと言うことがわかりますね。
大部分の国民は集合住宅に入っていて、それは素寒貧な石造の住宅なのです。
それなのに「全室暖房」は文化として根付いているので、
驚くほどに暖房エネルギーを消費している。これをなんとかしたい、
というのが政策課題の前面に来るのは無理がない。
それに対して、より厳しい気候条件で、
なおかつ水分コントロールが非常に微妙な「木造」で作られていて、
しかも戸建て指向が非常に強い国民性を持つ
日本のなかの一地方である北海道が、国全体と話し合いながら、
「義務化」という強制手段も行使できないなかで、
ここまでのレベルの住宅性能を実現してきている。
地域一体となった住宅性能向上意識が共有されている。
むしろ、日本人が共有体験として本当に解析すべきなのは、
このことの方ではないかと思う次第です。
Posted on 3月 29th, 2015 by 三木 奎吾
Filed under: 住宅性能・設備
[…] 知人の北海道内住宅研究者の方からきのうの拙ブログ(元の過去記事はこちら)をチェックいただいたあと「不穏なニュース」としてこちらのニュース情報をいただいた。日本国内向けニュースではまったくスルーされていたのでわたしは気付かなかったのですが、たまたま昨日、ドイツと北海道の住宅施策対話についての過去ブログ記事のことを書いたので、最新動向として知らされた次第。 う〜む、でありますね。ドイツ経済はいまかなり困難な状況に陥っていると言われています。左派系政権が続いてきてSDGsとか、自然エネルギー最優先とかの政策を推進してきていたのですが、その実困ったときにはフランスから原発由来の電力を融通購入したりしていた。またユーロという共通通貨の恩恵で輸出競争力が不当に強くなっていたのも事実。さらにいえば中国との貿易関係で経済的利益を享受し続けてきていた。 そういった政策姿勢がロシアのウクライナ侵攻で、実はドイツは完全に炭素エネのロシア産の天然ガス依存のエネルギー政策だと曝露され、EU内、全世界的にその依存を極小化させる方向に転換せざるを得なかった。その結果、エネルギー価格が超高騰して生活にもまた産業全般にも負の爆発が起こってしまった。このままではドイツ国内で製造業を維持していくのは不可能として国外脱出の動きが産業側に出てきている。 これらはドイツの第3次世界敗戦と言われていたけれど、このニュースではその影響の深刻さがさらにえぐり出されてきている。引用すると以下。 〜[ベルリン 9/25 ロイター] -ドイツ政府は9/25、高金利とコスト高に苦しむ建設業界を支えるために450億ユーロ(約7兆2,000億円)の支援策を打ち出すとともに、予定していた断熱規制の強化を無期延期すると発表した。この決定により連邦政府は2027年までに手ごろな価格の住宅向け180億ユーロを支出する。残りは州や地方政府が拠出する。 コストがかかり過ぎるとして業界が反対していた断熱基準強化は無期延期した。断熱材や効率的な暖房システムを用いたビル改修を義務付ける欧州連合(EU)の法案に反対していく意向も示した。 ドイツの不動産業界は長年、低金利を支えにブームに沸いていたが、現在は急速な金利上昇のあおりで多くの開発業者が支払い不能状態に追い込まれている。ショルツ首相は記者会見で「住宅建設を大幅に拡大しなければならない。手ごろな価格の住宅がもっと必要だ」と述べた。〜以上(一部に説明的加筆) ドイツの年間国家予算は5,727億ユーロ(91兆6千億円)なので、この住宅業界向け支援策は実に7.8%相当。こうした経済失政で現与党は最近の選挙では大敗続きとも言われている。 こういった状況のなかで過去のドイツの政治を見ると急激な振り子の振幅が見られてナチスが台頭したりした。ちょっと注意深く世界の動向を注視する必要がありそうですね。 […]
[…] ちょっと必要があって、過去のブログ記事を検索してみることに迫られた。記事はこちら。 っていうか、最近家族から、書き続けてきたブログを整理整頓して見るべきだという意見をされている次第です。2005年の愛知万博に行った頃から書き始めているので18年目に突入してきている。いちおう今のところ、病気入院などの時期も含めて365日年中無休継続中(笑)。 ということなので、総トータルの記事件数は6000件以上になっている。まぁ日々の「徒然草」もあるのですが、主に「家と人」テーマ。その範囲内でも、書く中身についてはやはり「傾向」があるので、自分でも新規記事の下準備でWEB検索していると、自分の書いたブログが上位表示されたりしてくる。ときには「お、オモシロいかなぁ」と読み込んでしまって、「あ、これ、オレが書いたヤツだ」みたいな間抜けな事態になったりする(笑)。 スクショを図扱いしたのは2015年3月ころに書いた記事。この続きは以下。 ちょうどドイツからの行政側も含めた住宅研究者がこの時期に来日して、その最後の日程に北海道に来て、北海道の関係者と話し合った様子をもとにまとめたものでした。 いまドイツはロシアからの化石燃料・天然ガス供給がウクライナ危機の勃発で危殆に瀕し、EUとしての立場からロシア産から他国産のそれに切り替えたりする過程で、電気料金が高騰して「ドイツの産業敗戦」とまで極論されている。エネルギー政策で非現実的な選択をしてきたことで産業基盤も大きく劣化させているという。 日本ではその中枢機構、行政や第3セクター研究機関などの方と話すと「将来ともドイツにだけは付いていかない」という肉声をよく聞く。第2次世界大戦でドイツと同盟したことで地獄を経験させられた日本国家機構として、ある意味、深い教訓・トラウマなのだと思える。 このブログ記事では、いわゆる「パッシブハウス」の動向もあってドイツは住宅性能基準を飛び抜けてレベルアップさせたが、しかし現実的には大多数の国民はコンクリートのマンション建築居住であり、木造住宅の建築規模はきわめて小さく、この記事時点では住宅総数の1%ほどしか、その基準を満たしているものはないとされていた。行政側として「既存改修」がいかに困難か、伝わってきていた。基準値を上げればそれが社会全体に行き渡るものではないことを表現している。 現実に北海道ではコスト的にもムリのない断熱レベル(Q値1.6)の住宅がごくふつうに建てられていることを紹介していた。ドイツ側のみなさんもそのことには驚かれていた記憶がある。 自分でまとめたブログ記事ですが、いま読み返してみて、これは最新のデータを収集して「更新」させる必要があるかも、と感じていた次第です。 […]