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茶髪のわかい大工さん

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いま、わたしが住んでいるわが家は、以前は事務所兼用。
新築が1991年でしたが、仕事やスタッフが増えていくので、5年ほどで増築に踏み切りました。そのまえの外観や内部空間など、すごく好きだったのですが、仕事と家庭生活、ギリギリのなかでの選択としてやむを得ませんでした。 工事としては、地下を作ったり、そのうえに2階建ての変形スペースを増築したり、吹き抜けをつぶして床を広げたりと、とにかく仕事のスペースを確保させるのが目的。
その工事、土工事や構造工事が一段落して、木工事の仕上げ工事になって、やってきたんです。一発でそれとわかる大きな音のする車に乗った茶髪の青年が、工事現場のわが家に。 リフォームなもんですから、仕事や生活しながらの工事で近隣のみなさんへの配慮も必要。 こっちとしても、「おい、大丈夫なのか」と、気がかりだったですが、まぁ、人間、なりだけでは判断は出来ない。 って、見ていると、工事にはいるとけっこう身ごなしもよく、カンの良さそうな仕事ぶり。
施工の工務店の責任者の方に聞いたら、「わかくて、格好はどもこもならんけど、筋はいい仕事できるんですよ」という評価なんだとか。 わが家はちょっと変わった家ですから、仕事としては難しく、大工職人としての現場対応力やセンスのようなものが必要とされる工事。 どうも話しぶりから、ハラハラしながらもこの茶髪の青年の成長を期待しているんだな、って感じました。事実、ここはこうしようみたいな判断力や、仕上げの修まりが瞬間的に目にみえている様子で、作業に無駄が感じられず、仕事中は私語も少ない。
やっぱ、見かけだけじゃわかりません。
さて、工事も順調に進んで佳境になってきた、ある晴れて天気のいい朝、かれがこない。 電話連絡もない、仕事に完璧に穴が空いた。チーム制でやっている大工さんたちからすると、その日の工程の組み替えや段取りが大狂い。四苦八苦の様子でした。
で、翌朝、なにごともなさそうに明るく登場したかれ。
「すいません、きのう彼女と海、行っちゃって・・・」
「バカやろー」と、いうのも、なんか気が抜けてしまうような明るいあっけらかんぶり。 ま、しょがない、ついにやったか。みたいなヘンなあきらめも感じられて、見ているこっちも楽しく感じるやりとり。
きのうの分を取り返すからな、ということで、注意処分。
ということも折り混ざりながら、突貫工事のリフォーム工事も完成。
大工さんたちも、もう現場に来ることもありません。ようやく静かな環境が訪れたな、と思っていたある夜。
あのけたたましい音の車が家の前に停まりました。
「おう、どした?」って、ちょっとなつかしくて扉を開いたら、
「すいません、彼女に、俺のやった仕事、見させてもらっていいっすか?」
というお願いだったのです。
茶髪の青年からこんなまじめな、自分の仕事への誇りが感じられるセリフが聞けるとは、びっくり。
いっしょに海に行ってた彼女をエスコートして、おもに自分が担当した右側写真の3階を説明しながら案内してました。
「ありがとうございました」って、あの屈託のない笑顔で帰りにいわれたとき、
いいやつなんだな、って納得。
「おう、彼女とうまくやれよ」。
いまごろ、どうしているんだろうか。

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