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青森県立美術館にて

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古民家とか、遺跡とかの方の興味が強い男なので
三内丸山遺跡には行きたいとは思っても、その隣接する青森県立美術館には
一度も足を向けておりませんでした。
建築に関連する人間として、これではまずいなぁと思っていて、
ようやく今回、見学して参りました。

美術というものは、なかなか定義が難しいと思います。
わたしは、自分自身では土偶とかの手触りの感覚、
人間くさい、俵屋宗達の風神雷神、
青森の風土を感じさせてくれる棟方志功さんとか、
そういったものに強く惹かれるタイプの人間であります。
サイズが、どれもが比較的小さめのものを凝視するような体験が好ましい。
なんとなくそんなふうに思っていたものですから、
建物としての、というように興味はあまり持っていませんでした。
ところが、この青森県立美術館では、いきなり美術鑑賞の寸法がまったく違う。
導入されて最初に入る常設展示スペースでは、
高さが21mあるという広大な空間が広がり、
シャガールの「舞台背景画」が3面の壁面に展示されている。
ちょっと、スケール感の違いに目眩に似た感覚が引き起こされます。
で、どうも落ち着かない。
なぜかというと、スペースと作品が巨大すぎて、
見るものと作品との「対話」がどうも成立しないと感じられるのです。
それには、四方に配置されている美術館職員さんの視線を
痛いほどに自分一個に感じるということも大きいと、あとから気付く。
「え、そんなにジロジロ見ないでください。悪いことはしませんから」
というような心理的圧迫に圧倒されて、
一刻も早くこの場を立ち去りたい、という気分にどうしても駆られる。
巨大空間とジロジロ。
引き続く「青森イヌ」コーナーは、やや落ち着くかと思ったのですが、
やはりイヌの巨大さに圧倒され続けて、
どうも空間感覚が回復させられない。
そういえば順路も迷宮的で、それを一々館員の方たちから指示されるのも
自由を奪われていると感じざるを得ない。
まず、この居心地の悪さが、印象を覆い尽くしてしまって、
平常心が回復しないまま、予定した時間よりもずっと早く、
美術館を出たいという気持ちにさせられ続けていました。
正直に言って、建築はいろいろに面白い空間を見せてくれているのでいいのだけれど、
美術を楽しく見られた、という印象にははるかに遠い。というか、まったく印象に残らない。
大好きな棟方志功さんのコーナーもあったのだけれど、
じっくり鑑賞すると言うよりも、ここでも館員さんの視線が厳しくて
「え、っと、次はどこに行けばいいのかな、館員さんに怒られないかな」
というような気がしてならない。
美術館建築って難しいのだろうな、とは思わされましたが、
終始、こうした印象のまま、この建築を後にした次第です。
最後、エレベータに乗ろうとして昇降ボタンを探したのですが、
ここには身障者用のサインだけがあって、
どうもこれは一般健常者は乗ってはいけないのではないかと不安にさせられました。
ショップで、建築家・青木淳さんのこの建築解題のような本を購入してきましたが、
建築としてはたいへん面白い空間体験をさせられたけれど、
どうもそこにどんな美術があったかは、不思議なほどに印象に残りませんでした。
棟方さんの作品すら印象がない。

先般行ってきた上野の近代美術館での
モネの作品コーナーでの「ずっと見ていたい」という体験余韻のようなものが、
わたしには懐かしく思われました。

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