本文へジャンプ

旭川高砂酒造「蔵」の窓

いつも古民家、というか古い商家などを見ていて、
そこには大体、「蔵」が付属して建てられています。
そういう建物は例外なく重厚な塗り壁もしくは石の壁で作られていて
同時に、必要な開口部の造作が、手作りで半端でない迫力を持っている。
たぶん、骨としての木組みに対して、
段々に重厚に漆喰が塗り重ねられて、
重々しい存在感を周囲に光彩として放ってくる。
入り口の重厚な扉が、まことに趣向が凝らされたまるで芸術品のような
印象を与えているケースが多い。
写真は先日、高校同期の連中といっしょに訪ねた旭川市の「高砂酒造」倉庫です。
この建物もまったく同じで、窓のしっくい造作の見事さは
ちょっとびっくりするほど。
こういう開き方の窓は、「観音開き」というのでしょうが、
機能性ということを遙かに超えて
その造形の美しさにほとんど目が点になってしまう。
白い漆喰壁と、下側の外壁に使われた木のコントラストが美しい。
窓を雨から保護するように設けられた木枠のような庇も彩りを引き立てている。
開かれた扉が閉じられるときに、段々の枠が
組み合わさって、重厚な壁面と同調するように重なるのでしょうが、
このように開かれた状態では、
街に対して一種のランドマークとしての役割まで果たしていると思います。
造作は無名の職人さんが行ったものでしょうが、
果たしてきた街の中での役割としては、一個の芸術的オブジェでもあった。
そんな思いがしてきます。

そもそもこういった蔵は、
大事な家財を収納させるのが目的で建てられたものでしょうが、
今日の社会では、このような目的意識自体が希薄になってきている。
ここでも現在は、昔の使用用途、家財の収納としてではなく、
レトロな資料室的な空間として使われていました。
しかし用途がたとえ変わったとしても、
美しく作られたものは、そういう機能性を超えて
人間の情緒に訴えかけてくるような力を持つのかも知れません。

今日、日々作られ続けている住宅や
近代主義そのものであるビル群などが、
その「美しさ」の故に、後代のひとびとの胸を揺さぶって
長い命を保ち続けていくのかどうか
ひるがえって考えさせられるような窓の表情であります。

Comments are closed.