本文へジャンプ

【人類的視点。国や社会は家族制度に根ざしている】

日本だけの「論壇」「政治論」だけでは正しい判断は難しい時代。
昨年引き続いたイギリスのEUからの離脱とアメリカのトランプ政権の成立。
これまでのグローバリズムを牽引してきていた英米両国でのこの歴史的変化は、
いったいどういう意味合いがあるのか、という問いに
フランスの人類学者・エマニュエル・トッドさんという論客の発言が注目されている。
どうも最近、日本の京大・山極先生とか、筑波大の西田先生、
さらにイスラエルのハラリさんなど、人類学者の意見に強く惹かれるのですが、
このトッドさんも人類学者で家族制度などの研究、人口動態の変化観察から
国家間の政治的対立など、現代の問題に独自の見方を与えてくれている。
とくに「歴史人口学」が専門とされて、家族の形態の相違・変化が、
その国の基底的イデオロギー動向を生み出すという卓見を表出している。
これら家族制度こそが、社会の価値観を生み出す。
人は特定の家族制度のもとに生まれることで価値観を先験的に身につけるからだと。

イギリスのEU離脱について、
世界中のいわゆる「進歩派」やメディアがおしなべて批判的であったのに対して
このトッドさんは明確にこの結果を予言し、また高く評価している。
はたしてEUは機能しているのか、ドイツ経済一人勝ちという結果は、どうであるのか。
そういった日本からは見えにくかった視点を明瞭に見せてくれている。
いま読んでいるのは、「ドイツ帝国が世界を破滅させる」という刺激的タイトルの本。
経済大国ドイツは、いびつな人口構成の社会を持っていて、
日本にも似て若年労働力が大きく毀損している社会であって、この社会構造から、
EU圏諸国、さらにイスラム圏の「安価な」若年熟練労働力を吸い寄せ続け、
ドイツの経済的実力からは信じられないほど安い通貨、ユーロを戦略的に活かし、
世界各国に輸出攻勢をかけ続け、ほぼ域内で一人勝ちしている。
そうした「労働力確保」の端的な政策表現が「進歩派」グローバリズムの衣をまとう。
メルケルの言っていることに象徴される価値観。いわく人権であるとか、
移動の自由とかの上からの「エリート」的価値観で世界を支配し、
ドイツはいまや、現代における「帝国」として立ち現れていると論破している。

っていうような知識人の種類は、日本の言論空間、政治論空間には存在しない。
なのですが、かれの「人類家族形態」の研究という視点は、
住宅のことを考えていくときに、非常に深い洞察であることが自明だと思います。
たしかに家族の形態認識、特定は住宅設計に於いても基本の基本。
トッドが示した家族型は以下のようになっている。
1.絶対核家族〜英米国社会が典型。基本的価値は自由。個人主義、自由経済を好む。
2.平等主義核家族〜同じ「核家族」でも基本的価値は自由に平等が加わる。フランス
  南欧、中欧などに広がっている形態。
3.直系家族〜基本的価値は権威と不平等。秩序と安定を好み、自民族中心主義。
  ドイツや日本がこのタイプとされる。
4.外婚制共同体家族〜基本的価値は権威と平等。息子はすべて親元に残り大家族を作る。
   親は子に対し権威的であり、兄弟は平等。ロシアや中国が分類される。
5.内婚制共同体家族〜権威よりも慣習が優先。イスラム教社会と親和的な形態。
6.非対称共同体家族〜母系のいとこの結婚が優先される。親は子に対し権威的。
  兄弟姉妹は兄と妹、または姉と弟は連帯するが同性では連帯しない。インド南部社会。
7.アノミー的家族〜基本的に絶対核家族と同じ、はっきりした家族の規則はない。
  社会の結束が弱い。宗教に寛容。東南アジアや先住民族などの社会。
8.アフリカ・システム〜 一夫多妻が普通。母子家庭の集まりに近く、父親に統合されない。
  アフリカに一般的なカタチ。

・・・確かに人間社会の構造分析におおむね合致しているし、
人類史的な視点、人類の精神構造発達史を踏まえているので分析として明晰。
どうも最近、知の領域で「人類史」史観や見方がわたし的には有力になっている・・・。

<写真はラスコー展での精緻なクロマニョン人復元マネキン>

コメントを投稿

「※誹謗中傷や、悪意のある書き込み、営利目的などのコメントを防ぐために、投稿された全てのコメントは一時的に保留されますのでご了承ください。」

You must be logged in to post a comment.